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    「一歩己の町」古殿に根を張る2代目店主
    中華をベースに「ここでしか出せない味」を磨く

    • [中華料理]桃飯房sone
    • 中通り・古殿町

    古殿町で30数年愛されたラーメンと定食の店がルーツ。提供される日本酒はもちろん、地元が誇る酒蔵、豊国酒造の酒。

    県の南東部に位置し東をいわき市と接する山あいの町、石川郡古殿町。阿武隈高地に端を発しいわきで太平洋へと流れ込む鮫川の清流沿いに開けたかつての宿場町で、街道沿いに風情ある街並みが広がっています。鎌倉時代から続くと言われる神事「笠懸・流鏑馬(かさがけ・やぶさめ)」が行われる歴史の町、また近年は、全国にファンを持つ日本酒「一歩己」の醸造元である豊国酒造がある町としても知られています。

    その古殿町の中心部からやや西へ向かった街道沿いにある「桃飯房sоne」。地元で30年以上にわたって愛されてきたラーメンと定食の店「そねや食堂」をリニューアルし、2016年に再オープンしました。店主の曽根道真さんはこの店の2代目。そねや食堂時代からの中華の伝統を残しつつ、その枠に収まらない新しい料理の可能性に、ここ古殿で挑んでいます。

    小学2年生の文集で将来の夢を「コックさん」と書いたという曽根さん。その夢は中学、高校時代も変わることなく、高校卒業後は東京で修業。6年間の経験を経てそねや食堂に入りました。しかし、全国の山あいの町や村がそうであるように古殿町も過疎化が進み、定食屋としては手詰まりを感じていたと言います。一時は違う土地での移転開業も考えましたが、その計画も思うように進まず、店のスタイルを変えて地元で店を続けることを決意。「結果としてはそれが正解だった」と語りますが、曽根さんがそれを実感することになったのは、実は最近になってからのことです。

    My
    Terroir

    鮫川村 白坂農園の「鮫川ウド」

    そねや食堂時代の仕入れは、完全にお母様任せ。店にある食材でただ無難に調理するだけでした。しかしリニューアル後、自分で仕入れを考えるようになったことで、少しずつその意識が変わっていったと言います。

    「例えば回鍋肉に使うキャベツを道の駅で買うとして、もし道の駅にいいキャベツがなかった場合に、じゃあわざわざスーパーで県外産のキャベツを買ってまで回鍋肉を作るべきなのか。ある時ふとそう思ったんです。キャベツがないならそれ以外の地元の野菜で何か他のものを作ったほうがいいんじゃないかと。料理ありきで食材を買っていたところから、素材ありきで料理を組み立てるように考え方が変わったんです。」

    すると不思議なことに、料理人としての曽根さんを取り巻く環境が一気に動き出しました。地元の生産者とのつながりが次の生産者との出会いを生み、その生産者との出会いが魅力的な食材との出会いにつながって、曽根さんの料理を変えてきました。隣村である鮫川村の白坂農園で栽培される「鮫川ウド」も、そんな風にして出会った食材の一つでした。

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    Mariage

    鮫川ウドの棒棒鶏

    鮫川ウドの最大の特徴はエグみのなさ。室(むろ)の中で日光を当てずに栽培することで、生でも食べられる白くやわらかなウドが育ちます。その鮫川ウドを細長く切り、蒸し鶏と一緒に棒棒鶏に仕立てました。その盛り付けには、中華のダイナミックさとは一味違う繊細さがあります。

    「東京にいた頃、半年だけイタリア料理店で働いたことがありました。カルチャーショックでしたね。大衆中華が全盛でその世界しか知らなかった自分が、一つひとつ細かい手順や盛り付けが必要な世界にいきなり入ったので。でも、その時の経験は今も確実に役に立っていますし、その経験がなければ今こうした盛り付けは思いついていなかったかもしれません。」

    この棒棒鶏に合わせるのは、もちろん地元 豊国酒造の純米酒「超」です。キレの良いスッキリとした味わいが棒棒鶏のラー油の辛味を中和し、ゴマダレの甘みと絶妙に絡み合います。

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    Menu
    • ジャージー乳のクリームチーズとフキノトウ味噌の春巻き

    • 春巻きの中には季節によってさまざまな食材が盛り込まれる

    • 町の中華屋から変貌を遂げた桃飯房。店の内外装もモダンな佇まいに生まれ変わった。

    もう一つ、中華の領域ではほとんど用いることのない食材ながら取り入れるのが、チーズです。鮫川村 ファームつばさのジャージー乳を使ったクリームチームを自家製のふきのとう味噌と混ぜて春巻にしました。クリームチーズと合わせる具材は季節によってそれぞれ。タケノコなどの山の幸の時もあれば、いわきの海の幸を混ぜ込むこともあります。

    この春巻には、古殿が全国に誇る酒「一歩己」を合わせます。

    「不思議なんですが、自分では赤ワインや白ワインに合わせるようなイメージで作った料理でも、みなさんに感想を聞くと“一歩己が一番合うよ”と言うんです。水のせいじゃないかという方がいらっしゃいましたが、確かに、地元の水を使った酒とそれと同じ水を使った料理が合うのは当然なんだろうなと思います。」

    「そねや食堂」から「桃飯房sоne」となってからの歳月で、料理人として多くの出会いとチャレンジを経験した曽根さん。かつては町を出ようと思っていた自分が今こうして店を軌道に乗せることができているのは、古殿町で店をやっているからに他ならないと感じるようになったと言います。いわきに近いことで萩春朋シェフを始めとするいわきの料理人や生産者とのネットワークが生まれ、豊国酒造の蔵元杜氏である矢内賢征さんとのつながりが中通りのシェフとの交流につながりました。SNSを通じて店を知りわざわざ遠くから訪ねてくれるお客さんも増えたとか。ここでしか食べられない料理を提供すればどこからでもお客さんは来てくれる。そんな確信が持てるようになったと言います。

    一方では、昔から店を愛してくださったお客様も大切にしたい。地元に根差す者として、それも忘れたくはないと曽根さんは語ります。

    「遠くから来て下さる方のために新しいものにチャレンジすることは確かに刺激的ですが、それでは今までのお客さんを置き去りにしてしまうとも感じます。そもそもの店の成り立ちを考えると、ルーツはやっぱり大事にしたい。いまだにうちを“そねや食堂”と呼ぶお客さんもいらっしゃいますからね。

    いざという時に料理人としてしっかり勝負ができるよう準備をしつつ、力まず、惑わされず、調子に乗らず、しっかりと町に根を張りながら料理を作っていきたいと思います。」


    Data

    桃飯房sone

    • 住所:福島県石川郡古殿町大字竹貫千足73-4
    • 電話:0247-57-5073
    • 時間:ランチ 11:00~14:00/ディナー 17:30~20:00
    • 定休日:日曜