Terroage Fukushima テロワージュふくしま

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    産地だからこそ味わえる野菜の本当のおいしさと
    生産者の素晴らしさを料理で表現する

    • [フランス料理]なか田
    • 中通り・郡山市

    震災後に浪江町から郡山に移転した大堀相馬焼の窯元「陶徳」の器を使うなど、食材以外にまで福島へのこだわりを見せる。

    あこや姫、ハイカラりっくん、万吉どん、冬甘菜(ふゆかんな)、めんげ芋。これらはすべて、ある一定の基準のもと郡山市で生産される「郡山ブランド野菜」の名前です。2003年、市内の生産者の有志が集まり、郡山の豊かな農産業を象徴するような野菜を創り出すべくその取り組みがスタートしました。現在、13品がその認定を受けています。

    その郡山ブランド野菜を含めた、さまざまな郡山産の野菜を積極的に料理に取り入れ、独自のフランス料理を提供するのが「なか田」です。郡山の総鎮守、安積国造(あさかくにつこ)神社の表参道沿いに2019年に店を構えました。

    「自分の店を出すならストーリー性のある場所がいいとずっと思っていたんです。ここ以上の場所はないでしょう。郡山の国を造った神様の目の前ですから。」

    オーナーシェフの中田智之さんはそう語ります。

    中田さんは神奈川県の生まれ。小学校時代に父の故郷である郡山に移り、中学高校と市内で過ごしました。料理の道を志したのは中学生の頃。料理と服飾の専門学校で先生をしてた母と、板前だった母方の祖父の影響が大きいと言います。

    高校卒業後に上京し、都内フランス料理店、ミシュランガイド掲載店にてスーシェフを務め経験を積んだ中田シェフ。2014年、山形をベースに世界的に活躍する活躍するイタリアンの奥田政行シェフの誘いを受け、奥田シェフが郡山で新たにオープンする地産地消のレストランの料理長として帰郷しました。そこで出会い衝撃を受けたのが、「郡山ブランド野菜」を中心とした地元野菜の数々と、郡山ブランド野菜の推進役である鈴木農場 鈴木光一さんの存在でした。

    「農業ってクタクタになって仕事をしているイメージだったし、震災からまだ3年で、福島の野菜って大丈夫なんだろうかと思っていました。でも光一さんと出会って、農業に対する考えが180度変わりました。郡山ブランド野菜という誰もやっていないことにチャレンジするその姿がカッコよかったし、何より野菜がうまかった。東京時代は、人参は人参だとしか思っていなかったんです。でも、同じ人参でもいろんな種類があったり、収穫する時期や畑の場所によっても味が違ったりする。以前はメインの肉や魚にどんな野菜を合わせようかと考えて料理を作っていましたが、今は逆です。野菜にどうメインを合わせようかと考えるようになりました。」

    My
    Terroir

    中田シェフが自ら収穫してきた野菜。毎日のように畑に通い、その日に使う野菜を見極める。

    「なか田」で提供される野菜のほとんどは、鈴木農場を中心に市内の農家へ中田さんが直接足を運び、収穫してきたもの。自ら畑に入り、時には育てるところから野菜に関わることで、自らの料理に変化が生まれたと言います。

    「郡山に戻ってから、料理で使う塩やバターの量が減りました。フードマイレージが大きくなればなるほど、野菜のミネラルや塩分は抜けていくと言います。そうすると、食材から抜けた味を補うために塩を余計に使ってしまう。でも、産地と提供するお店が近ければ塩を余計に使う必要はなく、野菜自体の味で充分料理はおいしくなります。郡山の野菜に出会ってから、野菜にかける手間はものすごく減りました。」

    My
    Mariage

    春菊と鰆を相馬の海に見立てた春菊のソースで味わう春の一皿。

    相馬産の鰆(さわら)を軽く炙り、摘みたての春菊を乗せ、スライスした色とりどりの小カブと金柑を添えた一品。ハマグリの出汁とアンチョビで味付けした春菊のソースとポルチーニのソースとの2つの味で彩ります。合わせるお酒は郡山市 笹の川酒造の「春酒」です。

    「春菊の“春”と、春酒の“春”、それに、魚偏に“春”と書く鰆。春の字がつく食材でまとめてみました。主役は春菊です。野菜をおいしく食べるには脂肪分も必要なので、寒い時期には脂が乗って甘みのある鰆と一緒に召し上がっていただきます。春菊の鮮やかなソースは相馬の海をイメージしました。魚に脂が乗っているので、お酒は旨味がありつつ少しキリッとした味わいのものを選びました。」

    Terroage
    Menu
    • うねめ牛の熟成ランプ肉と季節の野菜をフォンドボーと黒トリュフのソースで

    • 牛ひき肉芽キャベツに詰めた“カイエット”は中田シェフの遊び心

    • ひと口にカブと言っても種類はさまざま

    野菜だけでなく他の食材も郡山産にこだわる中田シェフ。牛肉は、郡山の銘柄牛である「うねめ牛」を育てる武田ファームの肉を使います。武田ファームの牛は、全国トップクラスの牛肉の品評会でこれまで3度の最優秀賞を獲得。松坂牛や米沢牛といった有名ブランド牛にも引けを取らない実績を残しています。60日以上熟成させたそのうねめ牛のランプ肉を包み込むように、さまざまな野菜が盛り付けられます。合わせるお酒は、郡山市 仁井田本家の「かをるやま」です。

    「食材とお酒の両方から野菜が持つ“おいしい土っぽさ”を感じていただく料理です。牛肉の下にコクのある白菜をバター代わりに敷いて、周囲には焼きカブ、やや苦みがあるプチベール、普通はロスになってしまう牛肉の中落ちをひき肉にして芽キャベツに詰めた“カイエット”、飯坂温泉のラジウム卵を使った卵のコンフィを添えて、最後にフライしたゴボウを乗せました。ソースはフォンドボーと黒トリュフを使い、さらに菊芋のピューレを添えています。かをるやまは赤ワインの樽で仕込んだお酒。こちらもほんのりと酸味と土の香りがする日本酒です。」

    フレンチをベースに、地元の生産者や食材との出会いを重ねる中で独自の地産地消スタイルを確立する中田シェフ。その自身の変化に、「最近はフレンチと言えなくなってきた」と笑います。

    「東京にいた時は“俺の料理を食べろ、食べてくれ”と思ってやってましたけど、そういう気持ちはなくなりましたね。他のシェフの料理と自分の料理を比べる気持ちもなくなりました。料理で自分を表現するのではなく、生産者の素晴らしさを表現したいと思うようになったからでしょうね。

    自分は今、料理人でありつつ生産者の営業でもあると思っているんです。そういう気持ちで野菜とお客様をつなげたいし、お客様と生産者をつなげたいし、他のお店のシェフと生産者もつなげてあげたい。そんなふうに、“人をつなげるシェフ”になれたらと思っています。」


    Data

    なか田

    • 住所:福島県郡山市清水台1-6-23
    • 時間:火~土 17:30~23:00(コースラストオーダー 20:00、20:00~フリーオーダー)
    • 定休日:毎週日曜日、月曜日、祝日(日祝予約応相談)