(Japanese) 生産量日本一の郡山の鯉をブイヤベース風ソースで
伝統を受け継ぎつつ日本人に寄り添うフレンチを
(Japanese) コの字型のカウンターと4人掛けのテーブルが一つ。キッチンからすべての席にシェフの目が届く距離で極上のフレンチが提供される。
(Japanese) 郡山の目抜き通り、駅前大通りに面したビルの2階に、やや風変わりな名前のフレンチのお店があります。「郡山フランス料理研究所 Recettes(ルセット)」。切り盛りするのはオーナーシェフの國岡弘益さんです。福島県内を中心に全国各地で、またフランスでも2年、合計約30年にわたって腕を磨き、2022年秋に満を持してこの店を構えました。
國岡さんは福島県二本松市生まれ。料理の道を志したきっかけは「母かもしれない」と語ります。日々の食卓にも弁当にも出来合いのものやレトルトは一切使わず、カレーも鶏ガラでブイヨンを取るところから始めるほど料理好きだった母。その姿と味に触れながら育ったことが、シェフとしての彼の一つの土台となっています。高校卒業後は仙台の調理師学校に進学。和食、洋食、中華、寿司、菓子などあらゆるジャンルの調理を学び、卒業後は福島市内のホテルに就職しました。
「その時点では、自分がフランス料理の道へ進むなんて思いもしませんでした。就職先も、調理師学校の先輩が“あそこのホテルのフレンチレストランは洗い物をしなくていいらしいぞ”と言うので、それなら楽に働けるだろうと(笑)。料理に対して、まだその程度の軽い気持ちしかなかったんです。」
(Japanese) そのフレンチレストランは、ホテルに勤める調理師の中でも精鋭が集まる店。國岡シェフを料理にのめり込ませたのは、そこで待っていた、親身に面倒を見てくれる先輩や気にかけてくれる総料理長との出会い、そして、彼らが見せてくれた料理や食材に対する熱意でした。
ホテルに7年間勤務し28歳になると、妻とまだ小さかった子供を残して単身フランスへ。南西部ペリゴールのレストランで2年にわたり経験を積みます。帰国後は全国展開のブライダル企業に入社し、統括シェフや店舗の立ち上げシェフとして北は北海道から南は大分まで全国を奔走。さらに、東京・西麻布や広尾の星付きのレストランでも経験を積んだ時期もありました。
いつかは自分の店を――。
そんな思いも頭をよぎる中、東日本大震災を機に福島に戻り再びブライダルの世界へ。「軽い気持ち」で入ったはずのフレンチに人生を捧げ、気づけば約30年の歳月が経とうとしていました。さまざまな現場での経験から料理に対する自信が積み重なったこと、子供が成長したこと、郡山駅前の一等地にベストな物件が見つかったこと。50歳を手前にさまざまなきっかけが重なりました。「このチャンスを逃したら次はないだろう」と思ったという國岡シェフ。やるなら人生をかけてやらなければいけない。そんな想いでこの店をスタートさせました。
基本的なコンセプトは、当日ふらっと店に寄っても自分のお気に入りの一品が食べられる店。コースメニューも用意しつつ、アラカルトでも存分に質の高い味が楽しめ、しっかり満足できる店であること。そのコンセプトをブレずに守り続けたいと語ります。
Terroir
(Japanese) 市町村別生産量日本一を誇る郡山市の鯉に30年の技術で新たな息吹を与える。
(Japanese) 食材に素直になること。
國岡シェフは、自身の料理のこだわりの一つをそう表現します。食材に素直に、かつ謙虚に向き合い、素材の力を信じ、それをフランス料理のフォーマットの中で余すところなく生かす。それが、30年の経験から辿り着いた彼のフレンチの一つの理想形。そのこだわりを表現するための絶好の素材が郡山にはありました。郡山市が市町村別での生産量で日本一を誇る「鯉」です。
郡山は、水利の悪い郡山盆地を潤すために猪苗代湖から水を引く「安積疏水」が明治初期に開削されたことにより、農業や工業が飛躍的に発展しました。市内には疏水を流れ下ってきた水を貯めるための灌がい池があちこちに作られ、やがてその灌がい池では鯉が養殖されるようになって、今日に至る郡山の鯉食文化の礎となりました。臭みがなく脂の乗った、鯉のイメージを変える味わいが郡山の鯉にはあります。
Mariage
(Japanese) 熊田水産 磐梯鯉のポワレ そのアラを使ったブイヤベースソースと鈴木農場の冬野菜
(Japanese) そんな郡山の鯉を國岡シェフならではの発想でメニューにしたのが、「熊田水産 磐梯鯉のポワレ そのアラを使ったブイヤベースソースと鈴木農場の冬野菜」です。郡山市逢瀬町で70年にわたり鯉の養殖を手掛ける熊田水産が育てた鯉。その皮目をパリッと香ばしく焼いたポワレに、同じ逢瀬町に畑を持つ鈴木農場が育てたホウレンソウ「緑の王子」やカブ「あこや姫」などの郡山ブランド野菜(*)を添え、鯉のアラを使ったブイヤベースソースでいただきます。
「鯉を余すところなく一皿に盛り込んだ料理です。普通は捨てられてしまう鯉のアラに、南フランスのブイヤベースへのオマージュで甲殻類を味付けに取り入れ、ソースに仕立てました。鯉は骨が多い食材ですが、鱧(はも)のように細かく骨切りすることで、骨の存在をまったく感じずに食べていただけます。鯉以上に鯉を感じていただける一皿です。」
南フランスでは、ブイヤベースにはロゼワインが定番。ここで合わせるのも、郡山市逢瀬町ふくしま逢瀬ワイナリーのロゼ「Vin de Ollage(ヴァンデオラージュ)メルローロゼ2021」です。国産ぶどうを100%使用した日本ワインを対象としたコンクール「日本ワインコンクール」のロゼ部門で2022年に奨励賞を受賞しました。同じ水、同じ空気、同じ気候の中で育ったもの同士の組み合わせ。ペアリングの枠を超えたマリアージュを感じさせてくれます。
「伝統的なフランス料理の格好良さも残しつつ、日本人の嗜好にいかに寄り添うかを大切にしています。また、地産地消をコンセプトの一つにしつつ、季節や産地の影響で手に入らないものがあれば輸入食材も絡め、自分の技術とテクニックで融合させていく。そのバランスを常に考えています。」
*郡山ブランド野菜…ミネラルが豊富な猪苗代湖からの水や保肥力の高い粘土質の土など農業に適した環境を持ち、質・量ともに全国トップクラスの米の産地としても知られる郡山に農業の新しい特産品を作っていこうと、地元生産者たちによって2003年にスタートした取り組み。独自の基準により厳選された14種類の野菜が「郡山ブランド野菜」に認定されている。
https://brandyasai.jp/
(Japanese) 國岡シェフがもう一品用意してくれたのは、「鈴木農場 ミルキークイーンのリオレ おざわ農園のいちごと酒粕のアイスクリーム」。鈴木農場が育てた、モチモチ感が高く冷めても硬くなりにくい低アミロース米、ミルキークイーンを使ったミルク粥を、酒粕を練り込んだアイスクリームとココナツミルク、須賀川市のおざわ農園が育てたいちごと一緒にいただきます。リオレの周囲にまぶしたカカオパウダーも相まって、まるで小宇宙のような美しさを放つ一皿です。
「フランスのお母さんが子供たちに作るメニューをレストランのスイーツに昇華した、当店のスペシャリテです。お米とココナツミルク、ココナツミルクといちご、それぞれの相性の良さを活かして組み合わせました。ココナツミルクは店で煮出したものを使っています。」
このスペシャリテと合わせていただくのは、会津若松市 髙橋庄作酒造店の「会津娘 純米吟醸『穣』花坂境22」。一つの田んぼから一つの商品を作る「一田一穣」のコンセプトのもと生まれた会津産米100%の酒です。リオレの甘さやいちごの程良い酸味が酒の旨みと絶妙に溶け合います。
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本場のオーソドックスなフランス料理に最大限の敬意を払いつつ、地元食材の魅力にも目を向けながら、カウンターキッチンの向こうで日々腕を振るう國岡さん。彼はなぜ、自らの店を「研究所」と名付けたのか。そこには、30年の歳月の中で辿り着いた、料理に込める彼ならではのこだわりがあります。
「料理人は、日々同じ料理、同じメニューを作ります。しかし、単に同じものを作っていたのではいけない。日々探求心を忘れずに料理に取り組まなくてはいけないと思っています。“研究所”という言葉は、その意識を忘れないよう自分自身に対して向けたものです。店に来れば毎日その言葉が目に入ってきますからね。同じ料理であっても、もっとこうすれば良いのではないか、明日はもっとこうしようという研究を繰り返していきたいと思っています。
また、“ルセット”はフランス語で“レシピ”のことですが、そこには2つの意味合いがあります。一つは、私がこの30年で携わってきた数々のフレンチのレシピの集大成がこの店であるという意味、もう一つは、これから店に来ていただくお客様と共に料理以外のレシピを作り上げていきたいという意味です。みなさんと一緒に店を育てたいと思っています。」
料理や食材に対してだけでなく、お客様にも、また店づくりにおいても謙虚でありたいと語る國岡シェフ。その哲学が、店の名前にも、またその味にも込められていました。
(Japanese) 郡山フランス料理研究所 Recettes(ルセット)
- Address:(Japanese) 福島県郡山市駅前二丁目1-14 エリート24 2F
- Tel:(Japanese) 024-983-5950
- Open:(Japanese) 18:00~24:00(ラストオーダー23:30)
- Closed:(Japanese) 日曜日