(Japanese) 郡山ブランド野菜。厳選された相馬の魚。
福島の食材を活かし生み出す「飽きの来ない味」
(Japanese) 地元の食通に支持された名店「ラ・ギアンダ」から移転を機に店名を変え2020年に再スタート。地元食材をふんだんに取り入れたコース料理を提供する。
(Japanese) 2013年にオープンし、イタリアンをベースに地元の食材をふんだんに使った料理で地元の食通を魅了してきた名店「ラ・ギアンダ」の加藤智樹シェフ。2020年11月の移転を機に店名を自らの名を冠した「catoe」に改め再オープンしました。
加藤シェフの料理を支えているのは、郡山で育てられた新鮮な野菜や、相馬から週に2~3度届く質の高い魚介など、福島が誇る食材の数々。その食材に、イタリア料理の技と和の調味料をさりげなく使った味付けが調和します。飽きの来ない味が堪能できる、何度でも通いたくなる店です。
加藤シェフは、福島県南部・矢吹町の出身。料理の道を志したきっかけを聞くと、意外な答えが返ってきました。
(Japanese) 「競輪選手になりたかったんです。自転車に乗って稼げるなんて夢のような職業だなと思って(笑)。高校も、自転車部がある学校の中で実家から一番近く、かつ全国大会にもそこそこ出ていた岩瀬農業高校に進みました。
ところが、高校を卒業してさあプロを目指そうという時に練習で大きな怪我をしてしまったんです。プロになってから怪我をしたのなら”また頑張ろう”という気にもなれたかもしれませんが、プロになる前に挫折してしまった。競輪の道はもう現実的ではないと思ってしまいました。」
3ヵ月に及ぶ治療の間、どんな道に進もうかと考えた加藤さん。もともと独立志向があり「自ら何かを起こしたい」と考える中で思いついたのは、飲食店を持つこと。「だから、特に料理に高い志があったわけではないんです」と振り返ります。
しかし、郡山市の日本調理技術専門学校に入学すると一気に料理人への道が開けます。授業を通して日本のイタリア料理界を代表するシェフの一人である鮎田淳治氏と出会い、在学中から夏休みや冬休みを使って鮎田シェフがオーナーを務める東京・麻布十番のイタリアンの名店「La Cometa(ラ・コメータ)」で修行します。卒業するとそのままラ・コメータに就職し、鮎田シェフのもとで5年に渡り技術を習得。その後、中目黒にある「トラットリア タルトゥーカ」のオーナーシェフ藤澤正彦氏のもとでも5年、計10年間を東京で過ごし帰郷します。さらに会津や郡山の店でも経験を重ね、35歳で最初の店「ラ・ギアンダ」をオープンしました。
Terroir
(Japanese) 鈴木農場のマイクロリーフ。加藤シェフ自ら畑に入り収穫する。
(Japanese) 「ラ・ギアンダ」オープン当初は郡山市内の産直店などで野菜を仕入れていた加藤シェフですが、オープン後ほどなくして、郡山市「鈴木農場」の鈴木光一さんと出会います。鈴木さんは、郡山の農業に新しい特産品を作ろうと「郡山ブランド野菜協議会」を設立。生産者仲間と共に郡山の気候や風土の中だからこそ生み出せる郡山ブランド野菜の開発・生産・販路拡大に力を注ぐ、郡山の農業のリーダー的存在です。
「最初は産直の延長ぐらいにしか思っていなかったんです。でも、光一さん達に出会って想いを聞き、実際にその想いがこもった野菜を食べた時に、“こういう人たちの食材を使わなければ”と思いました。それに、本当においしかった。メイド・イン・イタリアの食材を集めてどこまで本場と同じような味を出せるかにこだわった時期もありましたが、本当においしいものを作ろうと思ったら、わざわざ日数をかけてイタリアから野菜を仕入れるよりも、地元でその日の朝に採れた食材を使ったほうが絶対おいしいに決まってますから。」
今、加藤さんは2日の一度のペースで鈴木農場に通い、自ら畑に入り収穫した野菜を料理に使っています。この日は辛みや苦みが異なる数種類のマイクロリーフを収穫。小さいながらも高い栄養価を誇るマイクロリーフは、加藤さんの料理の中でも、単なる飾りつけの野菜の枠を超えた味のアクセントとして活躍します。
Mariage
(Japanese) アンティパストとして提供される万吉どんのムース。逢瀬ワイナリーのシードルと合わせる
(Japanese) 料理はすべてコースで提供されるcatoe。そのアンティパストとして主に秋から春先にかけて提供されるのが「万吉どんのムース」です。万吉どんは郡山ブランド野菜の一つ。豊かな甘みを持つ玉ねぎです。その甘味を存分に引き出したムースは常連客からの人気が絶大。前菜でありながらcatoeのスペシャリテともいえる一品です。
「万吉どんのムースはリクエストが多いので通年置いておきたいのですが、新玉ねぎの時期はまだ甘みよりもみずみずしさのほうが上回るので、熟成されて甘みや旨味が増す10月頃からがおいしく提供できる季節になります。」
ムースの上にはアンチョビを練り込み平たく焼いたメレンゲと鈴木農場のマイクロリーフを乗せ、さらにその上から土をイメージした黒オリーブのパウダーをふりかけて完成です。合わせるお酒は、郡山市 逢瀬ワイナリーのシードル。福島県産の「ふじ」を100%使用した、豊かな甘さとやさしい酸味が溶け合ったシードルです。
「最近の郡山の農家さん達はみなさん本当にしっかりした野菜を作っていて、メインの食材に引けを取らない力強さや、脇役には収まらない味わいがあります。だからシーズンによっては野菜をトップに持ってくることも考えます。それほど郡山の農家さんたちのレベルは上がっているんです。今や東京のトップシェフたちがわざわざ取り寄せるまでになった郡山の野菜が車で少し走ればすぐに手に入る。この環境は、料理人にとって非常に大きなメリットだと思っています。」
ラ・ギアンダ時代はアラカルトで料理を提供していた加藤シェフですが、catoeになってからはコースのみのメニューに変えました。そこにも食材の魅力をより深く知って欲しいという思いが込められています。
「お店としては、その日においしいものを食べていただきたい。でも、それが必ずしもお客様が食べたいとものとリンクするとは限りませんでした。それならば、お店主体のメニューにさせていただき、僕らが自信を持って提供できるものを食べていただくスタイルにしようと考えました。」
(Japanese) 2品目にご用意いただいたのは、相馬港で水揚げされたスズキのソテー。cotoeには、相馬のカリスマ漁師として知られる菊地基文さんが水揚げしcatoeのために特別に目利きした選りすぐりの魚が週に2~3度届きます。取材の日も、スズキの他、ウスメバル、シロメバル、マアナゴ、ヤリイカ、そして高級魚のマツカワガレイが届きました。
「市場に流通する魚だと普通は水揚げ後3~4日経ってからお店に入ってきますが、うちには水揚げの翌日には届くので、魚の状態が全然違います。これも地元ならではの強みですし、漁師さんとの信頼関係も地域に根差しているからこそ作れるものだと思います。」
そんな相馬のスズキの切り身に相馬の魚と郡山の野菜で取った出汁を吸わせながら火を入れ、そこに相馬産のあおさ海苔を溶いて相馬の海をイメージしたソースに仕上げます。傍らに添えられたのは色味の違う2種類のカブなど、しっかりと甘みの乗った鈴木農場の冬野菜。その上に野菜の炭で作った飾りを乗せ、こちらも冬ならではの味であるヌーボーのオリーブオイルをたらして完成です。
合わせるお酒は、郡山市 仁井田本家の「かをるやま」。赤ワインの熟成に使われたオーク樽を使い熟成させることでほんのりと赤みを帯びた、甘みと酸味のバランスが絶妙な日本酒です。
この日本酒と加藤さんの料理とのマリアージュの秘密は、イタリアンをベースにしながら味の核に和のテイストを忍ばせる加藤さんの味付けのスタイルにあります。
「味そのものに直接的に和を感じさせることはあまりしませんが、しょうゆやかつおだし、しょっつるをベースにしたキャラメルソースなどを使った和の隠し味がうちの特色。そうすることで、飽きの来ない味、食べても疲れない味に仕上げています。」
料理人としてそんなオリジナルの味を追求する一方、自分のように地元の食材を使った料理を作る次の世代の料理人を育て輩出したいとも言う加藤さん。地産地消への高い意識を持った料理人が増えていくことは、郡山の農業や食文化の持続化につながるはずと語ります。
「そういうお店が増えていけば、”うちもそうしなければ”と考える料理人も増えていくでしょう。そうなれば、お客様はいつでもどこでも郡山ならではの食を堪能できるようになる。その連鎖が生まれることで、いずれは“食の街”として郡山にスポットが当たってくれたらいいなと思っています。」
(Japanese) catoe(カトウ)
- Address:(Japanese) 福島県郡山市西ノ内1-19-7
- Tel:(Japanese) 024-983-7367
- Open:(Japanese) 18:00~23:00(ラストオーダー 21:30)
- Closed:(Japanese) 日曜日