(Japanese) イタリア・プーリアのエッセンスを
地元食材にセンシティブに込める
(Japanese) 福島市の市街地に佇むレストラン。福島&東北を中心とした“つくり手の想いを感じる食材やワイン、空間”がコンセプト。
(Japanese) JR福島駅東口から歩いて数分。銀行や証券、保険会社など金融関連のオフィスが並ぶエリアのとある路地に、南イタリアのトラットリアを思わせる瀟洒な佇まいの店があります。
明るいブルーの扉を開けて中へ入ると、テーブル席の奥のカウンターで店主の青柳拓也さんご夫妻が出迎えてくれました。オープンは2014年。建物の梁を活かした内装デザインも、高校時代に建築を学んだ青柳さんが自ら手掛けたそうです。
(Japanese) 青柳さんは地元福島市の出身。高校卒業後、市内のレストランなどで料理の経験を積みました。数年が経ち、新たにオープン予定のレストランにシェフとして招かれ新たなスタートを切ろうとしたその矢先、東日本大震災が発生。影響で新しいスタートの話は立ち消えとなり、行き場を失いかけました。
「でも、逆にチャンスだと思ったんです。以前から一度はイタリアへ行きたいと思っていたので、いいタイミングなんじゃないかと。向こうで働けないかと思ってインターネットで現地の仕事を探していたら、南イタリアのプーリア州にあるレストランの求人を見つけて、ダメもとで応募したんです。そしたら“来てくれ”という話になって。
最初は半年後から勤めるという話だったんですが、向こうも震災後のこちらの状況を理解してくれて“早く来てもいい”と言ってくれたので、急いで手続きをして5月にはもう向こうに移りました。」
プーリア州は、よくブーツの形に例えられるイタリア本土の「かかと」の位置にあたる州。世界を代表するオリーブの産地としても知られています。青柳さんはバーリ県にある“コンヴェルサーノ”という街のリストランテ「pasha」(現ミシュラン1つ星)に勤務。仕事はもちろん日常生活をイタリア人と共に過ごす中で現地の郷土料理、ライフスタイル、様々なエッセンスを肌で感じて帰国しました。
「まだ24、5歳だったから勢いで行けましたけど、今考えると恐ろしいですね。」
そう言って青柳さんは笑います。
Terroir
(Japanese) プーリアから帰国して2年後、自らの名を冠したこの店を開き、現地で磨いた感性を福島、さらには広く東北の食材に向けて注ぐ青柳さん。地元に根差し地元の食材で料理を作る今のスタンスへたどり着いたのは、子供時代の環境を考えれば当然の流れだと感じています。
「父親はフレンチの料理人ですし、父方の祖父母も市内で食堂をやっていました。母方は料理人の家系ではありませんでしたが、春は山菜、秋はキノコなど子供の頃から季節のおいしいものを食べさせてくれました。福島で生まれ福島で育った自分にとっては、ごく自然に今に至ったと思っています。」
このお店の料理は、見て美しく、食べて美味しく、青柳さんのセンスが光るセンシティブな料理ばかり。なるほど、プロの料理人のお父様の血を受け継いだ料理の才覚が開花しているのかと納得です。
さて、青柳さんが手にしたのは、オープン直後からずっと使い続けているという川俣シャモでした。
Mariage
(Japanese) 草野一浩さんの人参の「ズッパ」 川俣シャモと黒米を添えて
(Japanese) イタリア語で「スープ」を意味するズッパ。日本人が考える一般的なスープと違い、ズッパは言わば「食べるスープ」です。軽く塩を振りレア気味に焼き上げた川俣シャモに加え、こちらも川俣で作られた古代品種の黒米を川俣シャモの出汁で炊いたリゾットを、人参のピューレと合わせました。上には、ふきのとうや人参の素揚げ、ドライにして削った人参の皮、コウタイサイの花を散りばめ、シャモの柔らかな香りが登り立ち、食欲を掻き立てます。
合わせるお酒は、「うさぎのぶどう畑」。モノトーンのかわいらしいイラストがラベルにあしらわれたこの微発砲のロゼワインは、福島市内で育った5種類のぶどうをブレンドし、宮城県川崎町のワイナリー「ファットリア・アル・フィオーレ」が醸造したものです。
「プーリアは食中酒としてロゼワインを飲むことも多い地域です。“ロゼは甘い”というイメージを持っている方も多いと思いますが、実際に現地で味わってから、僕自身もロゼに対するイメージがかなり変わりました。」
福島市内には2020年秋に新しいワイナリーが誕生する予定。「うさぎのぶどう畑」に使われているぶどうも、いずれはその新しいワイナリーでワインに生まれ変わることになるそうです。
(Japanese) 「プーリアでは、これが作れない女性はお嫁に行けないと言われるんです。」
そう言って青柳さんが次に作り始めたのは、プーリアでもっとも有名な料理の一つである耳たぶ形のパスタ「オレキエッテ」。宮城県石巻市で水揚げされ神経締めされたアンコウを仕入れ、身はローストに、骨やアラは出汁に、皮とトリッパ(胃袋)と肝はテリーヌにと、アンコウすべてを一皿の中に詰め込み、オレキエッテと絡めます。震災後に浪江町から福島市に引っ越した大堀相馬焼『近徳 京月窯』の美しい皿に盛りつけられました。こちらの一品も、色彩豊かで食べる前からどんな味がするのだろうと好奇心をくすぐられますが、立ち昇るアンコウの上品な香りを楽しみ、料理を口に運べば、常磐の海を彷彿とさせる豊かな味わいが拡がります。
「浜通りに行くと、アンコウを丸ごと使う“どぶ汁”という料理がありますよね。そんなイメージで作った一皿です。上にはルッコラとルッコラの花、リコッタチーズを乾燥させたリコッタサラータを乗せています。」
このオレキエッテに合わせるのは「田村 純米吟醸アンフォラ仕込み」。先ほどのズッパに合わせた「うさぎのぶどう畑」を醸造したファットリア・アル・フィオーレで使われていたワインの仕込み甕を使い、郡山市の仁井田本家が仕込んだ日本酒です。味わいもワインに近く、すっきりとした味わいが魚料理と程よく交わります。
お酒のラインナップはプーリア産を中心にワインがメインですが、近年は日本酒を含め、洋の東西を問わずさまざまなお酒を揃えているという青柳さん。プーリアでの経験は、固定概念にとらわれない料理の創造やペアリングのセンスにもつながっているようです。
「盛り付け一つを取っても、向こうのシェフは日本では絶対やらないようなスタイルを持っていて、勉強になりました。イタリア人シェフの盛り付けのセンスはやはり高いですからね。
食材の組み合わせも、例えば日本ではチーズと生の魚介を合わせるのはタブーというイメージがありますが、現地では普通にそれをやっていたり。日本にいるだけでは気づかないそうした発見が、今になって生きてきていると思います。」
オープン当初は地元の同世代の仲間にずいぶん助けられたという青柳さん。最近は幅広い世代にファンが広がり、そのファンの方々がさらに次のお客様を誘って店を訪ねてくれる。地元を中心に広がるその輪がうれしいと語ります。
「イタリアでも、生まれた場所で多くの知り合いとつながりながら生きていく、そういう人生の素晴らしさを感じたことがありました。それと同じように、自分も福島で、福島の人とのつながりを大切にしながら、これからも店を続けていきたいと思っています。」
(Japanese) Aoyagi
- Address:(Japanese) 福島県福島市大町2-2
- Tel:(Japanese) 024-563-5448
- Open:(Japanese) 18:00〜23:00
- Closed:(Japanese) 不定休
- Average Cost:(Japanese) 7,000円~