Terroage Fukushima テロワージュふくしま

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    日々当たり前に店に立ち、料理を作る。
    その日常に込める福島の「今」

    • [和食]和肴 ごとく
    • 中通り・福島市

    オープンキッチンで客と向きあいながら料理を作る。東京で積み上げた自信がこの店のスタイルにつながった。

    「いつかはふるさとで自分の店を開きたい」

    そんな想いを胸に東京で経験を積み念願を叶えた料理人は、福島にも少なくありません。福島市新町「ごとく」の店主、阿部俊光さんもその一人。30歳までに必ず地元で店を持つという固い決意のもと、東京で修業時代を過ごしました。赤ちょうちんの店でもいい。30歳の自分が持っている技で勝負しよう。もしうまくいかなかったら、それは誰のせいでもない、ただ自分の実力がないだけだと。

    東京では銀座や自由が丘の創作和食店などで腕を磨いた阿部さん。10年の歳月が流れ、まさに福島へ戻ろうと決意をしたその年に東日本大震災が発生。一時は帰郷を見送りましたが、それでも志が揺らぐことはなく、2013年、30歳になる2週間前に、ついに自分の店「ごとく」を開店しました。

    「店名は、コンロに鍋をかけるための鉄の支持具「五徳」から取りました。五徳は火と鍋の間を取り持つ、調理になくてはならないものですよね。この店もそんな、お客さんにとってなくてはならない存在になってくれたらと考えて、この名前にしました。」

    東京では「人に恵まれた」と阿部さんは振り返ります。最も長く働いた店も、震災後に東京で最後に働いた店も、社長は福島の出身。共に働く仲間や後輩にも福島の出身者が多く、そんな仲間達の協力があったからこそ今日まで店をやってこられたと言います。ごとくには、そうした出会いや、出会いから得た経験、生産者とのつながりが活きています。

    そんな阿部さんがこだわる福島の食材は、修業時代から使い続けている「川俣シャモ」です。

    My
    Terroir

    旨味が自慢の川俣シャモは阿部さんにとって付き合いの長い「相棒」のような存在だ。

    川俣シャモと出会ったのは20歳の頃。「地元の食材を使いたい」という自由が丘時代の社長と共に、川俣シャモを扱う川俣農業振興公社を訪ねたのが最初でした。以来15年以上にわたり向き合い続ける、阿部さんの料理人生の中でもとりわけ付き合いの長い食材です。

    「川俣シャモの一番の魅力は旨味の強さですが、それに加えて素晴らしいのは生産者さんの想いです。震災で一度は駄目になりかけましたが、そこからの復活劇は見ていて本当にすごかった。今では震災前より出荷数が増えているそうですし、うちでもずっと使い続けていく食材だと思います。」

    My
    Mariage

    川俣シャモのささみカツ 菜の花ソース添え

    そんな川俣シャモのささみ肉をさっと揚げ、春の香りが漂う菜の花のソースを添えたささみカツ。レアに仕上げたささみ肉の桃色が鮮やかです。菜の花のソースには玉ねぎや西京味噌の甘い味わいが漂います。

    「レアでおいしいのも川俣シャモのいいところ。それを活かすため、普通の揚げ物よりも高い温度で短時間揚げて、旨味をより感じていただけるようにしました。ぜひ燗酒と一緒にゆっくり味わっていただきたいです。」

    唎酒師の資格も持つ阿部さんがそう言って合わせたのは、会津坂下町 曙酒造の「天明 焔(ほむら) 生もと特別純米」。天明は、ごとくの開店当初から長く提供する、店の看板酒の一つ。店内には大きな菰樽も置かれています。中でも「焔」は、天明屈指のやさしい味わいが特徴。阿部さんおすすめの燗酒です。

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    Menu
    • ナメタガレイの刺身 皮と卵の煮凝り乗せ

    • 味付け濃いめの煮凝りがナメタガレイの食感を引き立てる

    • 食器や酒器の豊富さもお店の魅力の一つ。熱燗はピヨピヨと音が鳴る「うぐいす徳利」で提供されることもある。

    福島沖で穫れる「常磐もの」を代表する魚の一つであるナメタガレイは刺身で。そこにも阿部さんのアイディアが光ります。皮と卵で作った煮凝りを刺身で巻いて食べるスタイル。醤油なしでも充分にカレイの白身を堪能できるよう、煮凝りはあえて濃いめに味付けしました。合わせるお酒は天栄村 松崎酒造の「廣戸川 純米吟醸」。旨味と共に華やかさもある、刺身と相性抜群のお酒です。

    伊達市梁川町の農家さんから週2回野菜を仕入れるなど、県内産の食材も多く取り入れる阿部さん。一方で、気に入った食材や日本酒は県内産・県外産に関わらず積極的にラインナップに加えているとも言います。

    「地元の食材を使うことで福島が盛り上がることはもちろんいいことですけど、正直に言うと、実はそこにはそれほどこだわりがないんです。僕にとってそれ以上のこだわりはやはり、福島で生まれた自分が地元福島で店をやっているということ。大きな声で福島をうたわなくても、福島人が福島で当たり前に店に立ち、毎日当たり前のようにおいしい料理を出す。そのことで“福島は今こんな感じですよ”と知っていただくことは、自分にとっては地元の食材を味わっていただくことと同じぐらい大きなことだと思っているんです。」

    30歳の自分の技で福島に店を持つ。それで流行らなければ悪いのは自分。そんな想いで始めた店でしたが、今では地元の人に広く愛される店に育ちました。常連客になってくれた地元のお客さんが他県からの大切なお客様のおもてなしで店を使ってくれる。そんな時に大きな喜びを感じると言います。

    地元で愛される店であること。そして、その店でしか触れることができない人や味に触れること。それもまた、テロワージュの楽しみの一つの姿かもしれません。


    Data

    和肴 ごとく

    • 住所:福島県福島市新町3-13
    • 電話:024-563-1519
    • 時間:18:00〜24:00(ラストオーダー 23:00)
    • 定休日:毎週木曜日
    • 平均予算:6,000円~7,000円