宮大工が造った趣のある屋敷で食す「会津会席」。極上のシャトーブリアン(馬刺し)と会津の銘酒に酔いしれるひととき
会津の馬刺しの魅力を知り尽くした総料理長が仕入れるのは極上の逸品のみ。歴史を感じさせる重厚な和風建築も見どころの一つ。
会津東山温泉の玄関口、会津武家屋敷の前に佇む勇壮な木造建築。宮大工の技が光る母屋と、歴史を感じさせる茶室、そして庭園。ここは、会津伝統料理の数々、そして上品な赤身が素晴らしい「会津ブランド馬肉」を会津の銘酒とともに味わえる名店「鶴我・會津東山総本山」です。
総料理長の入谷充さんが会津の馬刺しに惚れ込み、愛し、この素晴らしさを多くの人に知ってほしいとの思いで郡山に「鶴我」を開業したのは、今から約30年前のこと。その後、会津若松市内や東京・赤坂などにも店舗を設けましたが、もともと祖父の家だったこの木造建築を改装し計6店舗の「総本山」として開業したのは意外にも最近で、2017年のことです。「いつかはここで馬刺しと会津の伝統料理を振る舞いたいと思ってやってきた」と入谷さん。深いゆかりのあるこの場所で、自身の料理の集大成を飾るべく腕を振るっています。
ここで提供される料理は、その名も「会津会席」。まずは、様々な郷土料理を散りばめた祝膳(八寸)が出されます。色彩豊かな品々が盛りつけられるのは、伝統の会津漆器。誇り高き会津ならではのおもてなしです。いわなの塩焼きは、踊り串の打ち方が普通とは逆。武士が豪快にかぶりつけるように配慮されたという城下町らしい心遣いを今に再現しています。
入谷さんは、郡山の店舗で一流の料理人5名に5年間師事し、実践により料理人としての腕を磨きました。会津の伝統料理は郷土料理研究家、平出美穂子先生の指導を受けながら、一つひとつ自分のものにしていったそうです。一方では、良い馬肉を仕入れるために生産者のもとへ何度も通い、少しずつ信頼関係を築いたと言います。会津の馬刺しは、脂肪の「さし」が入っていない赤身肉。低カロリー・低コレステロール・高タンパクを誇るその逸品が鶴我・會津東山総本山で味わえるのは、まさに入谷さんのその努力が結実したからこそです。
しかし、会津の馬肉はまだまだ認知度が低いのが現実。「会津人は宣伝がうまくない。(会津美里町産の)“高田梅”も、南高梅に匹敵するか、それ以上の梅だと私は思うけれど、東京の人はほとんど知らないですから」と語る入谷さんですが、2018年には地元の店を募り国産馬肉日本一の産地を目指して「さくらの会」を立ち上げ、<会津と言えば馬肉>というイメージの定着に繋げる活動を始めました。国内はもちろん海外から会津を訪ねる人々にも、馬刺しや会津料理の良さを知ってもらいたいと話します。
さて、入谷料理長がテロワージュメニューに選んだ食材は、やはり会津の「馬刺し」でした。
Terroir
会津の馬刺しは質の高い赤みが魅力。モツや脊髄など希少部位も提供する。
「馬刺しは九州でも有名ですが、脂身の「さし」が多い。対して会津の馬刺しは上品な赤身が特徴で、日本酒にもぴったりです。ひれの部位は、牛肉でいえばシャトーブリアン。唐辛子やニンニクを混ぜた辛味噌を醤油に溶かしていただくのが会津流です。ニンニクの香りにピリッと辛子が効き、醤油の味わいも上品で、あっさりとした赤身肉を引き立てます。」
これを、末廣酒造の大吟醸「玄宰(げんさい)」とあわせます。果実を思わせる吟醸香が、上品な馬肉の旨味を一層引き立てます。
Mariage
海のない会津ならではの食文化を感じる「鰊の山椒漬け」
会津郷土料理の中でも日本酒好きにはたまらないのが、「鰊の山椒漬け」。とりわけ冬場は鰊に脂が乗り、シンプルながらインパクトの強い<つまみの一品>となります。
この一皿にマリアージュさせるのは、廣木酒造の「飛露喜」純米吟醸。全国的に人気が高く一般にはなかかなか出回らないお酒ですが、ここでは常時楽しむことができます。これも酒屋さんとの長年の信頼関係があるからこそです。
「今でこそ“昔ながらの付き合い”といえるような間柄になりましたけど、馬肉もお酒も、最初は頼み込んでも突っぱねられることがありました。本当においしいものを提供したいその一心で根気よく通って、やっと出させてもらえるようになったんです。」
こんな言葉にも、入谷さんの努力の積み重ねが垣間見られます。今や一流料理人の風格漂う入谷さんですが、話をして感じるのは裏表のない実直な人柄。その人柄が、会津が誇る指折りの食材や日本酒のラインナップをお店にもたらしているのです。
鶴我・會津東山総本山には、福島県内全酒造59種の純米酒を4,500円で少量ずつ楽しめるサービスもあります。全国新酒鑑評会において7年連続金賞受賞蔵数日本一の福島県。その福島の日本酒をすべて取り揃えるこだわりにもまた、入谷さんの会津に対する、そして福島に対する深い愛が感じられます。