Terroage Fukushima テロワージュふくしま

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    自ら足を運び厳選した食材
    その良さを「発酵の力」で引き出す”

    • [和食/宿泊施設]沼尻高原ロッジ
    • 会津・猪苗代町

    和食店を中心に腕を磨いてきた根本シェフ。県産食材を中心としたコース料理で、歴史あるロッジの心地よい空間を演出している。

    女性で世界初のエベレスト登頂を果たした福島県三春町出身の登山家、故・田部井淳子さん。彼女が生前愛した場所が、名峰安達太良山の西麓にある「沼尻高原ロッジ」です。田部井さんがオーナーを務めたこのロッジは、山やスキーを愛する多くの人々の集いの場となっていました。2016年に田部井さんが亡くなって以後は閉館されていましたが、2019年11月、会津・芦ノ牧温泉にある「大川荘」が運営母体となり再オープン。田部井さんの遺志を受け継ぎつつ、幅広い世代の人にくつろぎの時を与える高原の宿泊施設としてリニューアルされました。

    豊かな自然に囲まれたロケーションや豊富な湯量を誇る温泉がこのロッジの魅力ですが、それに加えてもう一つ、ロッジの大きな特色となっているのが、福島県産の食材をふんだんに取り入れたディナー。腕を振るうのは、和食をベースにジャンルの枠に縛られない個性あふれる料理を創造する根本真料理長です。

    根本さんは、仙台市の出身。幼い頃から祖母や母親の作る家庭料理が好きで、「気づいたら料理の道に進んでいた」と話します。地元の調理学校卒業後は、仙台市にある老舗日本料理店で修行し、料理長まで昇り詰めました。

    「料理人として常に新しいことに身を置いていないと、自分が作りたい料理は完成できない」。そんな想いから、およそ15年おきに新しいことにチャレンジすると決めていたという根本さん。料理人として包丁を握るようになってから15年のタイミングに地元で和食店を開業すると、その味にほれ込んだ神奈川県海老名市「泉橋酒造」の蔵元からオファーを受けて店を畳み、2015年からは日本酒とのペアリングを提供する酒蔵直営レストランで料理長を任されました。

    沼尻高原ロッジから声が掛かったタイミングは、奇しくも自らの店を開業した年から15年のタイミング。それまで宿泊施設での料理経験はなく、未知の世界。新たなチャレンジとしてはうってつけの舞台でした。

    根本さんは、福島での新しい挑戦を、こんなふうに感じているそうです。

    「ここでは館内でのサービスや体験すべてが味になります。僕が100%で作った料理も、雪景色などのシチュエーションや、宿で過ごす時間を目いっぱい楽しんでいただければ、その満足感は120%にも、150%にも膨れ上がる。そういったところにおもしろさを感じています。」

    My
    Terroir

    牛は福島牛。卵は会津地鶏の平飼い卵。彩りを添えるのは西会津のハーブ。生産者の想いも一皿で表現する。

    根本さんが食材を選ぶうえで特に大切にしているのは、生産者との信頼関係です。生産者の顔が見える福島県産の食材を中心に、長年の付き合いがある宮城の食材も交えて創り出される一皿。生産者の食材への愛情を感じる、安心して提供できる食材だけを厳選して構成されます。

    「料理は、ちょっとでも勉強すれば、どんな人でも美味しいものが作れる。でも、生産者の想いを伝えられる料理ができるかどうかは、経験や人とのつながりがあるかどうかによると思うんです。

    例えば、西会津の生産者さんのハーブ。ハーブって普通、雑草のようにたくさん生えているんですが、それをきれいに摘み取って、一つひとつ紙に並べて届けてくださいます。そうすると適度な水分量が保たれて、日持ちも全然違う。こうした心遣いで、食材を愛しているということがすごくわかるんです。そうして愛情を込めて作られた食材に責任を持って、すべてが主役になるようにしなきゃいけません。」

    My
    Mariage

    酒蔵レストランでの経験を詰め込んだマリアージュが迎えてくれる

    根本さんが得意とするのは、酒蔵レストランで培った、発酵を用いた調理法。鮮度が求められる食材と下処理で適度に熟成させる食材を見極め、寝かせたり麹や塩で漬け込んだりすることで、食材の潜在的な魅力を引き出します。

    この日の前菜は、福島県オリジナルのブランド豚「麓山高原豚」のロースを玄米麹にじっくり2週間漬け込み、低温で火入れして仕上げたハム。会津産はちみつで和えた金柑と西会津産の無農薬ハーブがアクセントとなり、ハムの脂の甘みとまろやかさを引き立たせます。この一皿にチーズを挟んだ会津みしらず柿のあんぽ柿を添えると、甘い・辛い・苦い・酸っぱい・塩辛いの「五味」がそろったコースの始まりにふさわしい一皿になります。

    合わせるのは、会津若松市 辰泉酒造の純米吟醸「辰泉 純米吟醸 辰ラベル No.1 ふなまえ酒」。プチプチとした微発砲が豚肉の脂と果物の爽やかな味わいにマッチします。ガスを逃がさない口の狭いワイングラスで、酒の変化を楽しみながらいただきます。

    Terroage
    Menu
    • 雪深い猪苗代町。冬はこの景色も食事の楽しみに彩を添えてくれる

    • 「自然の中で自然に近い料理を食べて、心も体も癒されて帰ってもらいたい」と話す根本さん

    • 塩、米麹、米を3:5:8の割合で混ぜた福島の伝統的な漬け床「三五八」に漬けた会津地鶏の卵(左上)、焼いてから熟成させた「焼芋ブリュレ」(中上)も味わい深い

    メインは薪火(まきび)で薫香焼きにした福島牛のヒレ肉のステーキ。薪(まき)はレストラン内にある薪ストーブでも使用しているもので、暖かみのある香りが広がります。ヒレ肉に歩調を合わせるように絡まるのは、会津産高麗人参と会津みそ、醤油を合わせたソース。添えられた「黄身塩」は、卵黄を生のまま塩漬けにしてすりおろしたもので、品のある肉の香りにぐっとコクを加えます。

    こちらにペアリングするのは、猪苗代町 稲川酒造店「七重郎 山田錦仕込」の純米大吟醸原酒。噛めば噛むほど味わいがにじみ出る福島牛の熟成された味わいにぴったりです。

    記憶に残る料理――。

    それが、根本さんが人生を懸けて実現させたい料理だといいます。

    「写真を撮れば記録にはなりますが、味は絶対に残らない。“根本が作ったあれが食べたい”と言われるような料理が、記憶に残る味だと思っています。

    でも、実は一つ、できてるんです。」

    そう教えてくれたのは、20年近く継ぎ足したタレでサンマを丸ごと煮た「サンマの黄金煮」。幼少期に祖母に作ってもらった味の記憶をもとに、佃煮や甘露煮で使われる「万年煮」という手法にアレンジを加えた、根本さんのスペシャリテです。これまで歩んできた飲食店でも大人気だった一品ですが、以前は三陸産のサンマのみを使っていました。しかし、いわき市の小名浜港でもサンマは揚がります。2023年秋ごろからは、小名浜で水揚げされたサンマを使った黄金煮をロッジでも提供予定。「福島版」のスペシャリテが楽しめるかもしれません。

    「お付き合いのある宮城の生産者からも感じていたことですが、東北の生産者は、自分の産品の魅力やこだわりを伝えるのがあまり上手じゃない。福島に来てからも同じことを感じています。でも、福島県ってほんとうに広いし、まだ知らない優れた食材もたくさんあるでしょう。生産者の思いを料理で表現し、食べる人に伝えること。それが料理人の役目だと思っています。」

    福島産食材の魅力を伝える根本さんの歩みは、まだ始まったばかりです。


    Data

    沼尻高原ロッジ

    • 住所:福島県耶麻郡猪苗代町大字蚕養字沼尻山甲2864
    • 電話:0242-93-8101
    • 時間:受付時間/9:00〜19:00
    • 定休日:毎週火曜日・水曜日