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    旅情ただよう土湯温泉の籠り宿で味わう
    地元食材づくしの「極上田舎料理」

    • [和食/宿泊施設]はるみや旅館
    • 中通り・福島市

    吾妻山を水源に福島市へと流れる荒川のほとりにある隠れ家的な宿。社長と料理長が自らの足で探した地元食材づくしの「田舎料理」が味わえる。

    福島市の西にそびえる吾妻連峰。その山懐に佇むいで湯の里、土湯温泉は「福島の奥座敷」とも呼ばれ、昔ながらの風情ある温泉街の雰囲気を今も残し、年間通して多くの観光客や湯治客が訪れます。

    その土湯温泉の町を貫くように流れる荒川のほとりに、隠れ家のような静かな宿があります。宿の名は「はるみや旅館」。全10室のうち9室が露天風呂付きという、まさに「籠り宿」と呼ぶにふさわしい旅情ただよう旅館です。

    このはるみや旅館で提供される夕食は、山あいのこの地ならではの食材をふんだんに使った、素朴でありながらも贅を尽くした「田舎料理」の数々。腕を振るうのは、料理長の橋本雅志さんです。

    「実はここにお世話になる前、料理の仕事はもうやめようと思っていたんです。」

    橋本さんはそう言って少しはにかみながら、ご自身のことを語ってくださいました。本宮市に生まれ育ち、調理師だったお母様の影響もあって子供の頃から料理に親しんでいたという橋本さん。高校卒業後、二本松市は岳(だけ)温泉の旅館で和食の技術を学びました。さらに磐梯熱海温泉(郡山市)の旅館でも経験を積みましたが、震災の影響で観光業が落ち込んだことから旅館での仕事をあきらめ、その後は結婚式場で調理の仕事に就きます。しかしその毎日に、料理人としての価値や楽しみを見いだせなくなっていたと言います。

    「もうやめてしまおう」。そう思っていた橋本さんを気にかけ、根気強く声をかけてくれたのは、最初の職場だった岳温泉時代の親方でした。実は、はるみや旅館の社長であり橋本さんが入る前の料理長でもあった今泉強さんもまた、同じ親方のもとで修業した一人。その縁もあり、2019年からはるみや旅館での橋本さんの新しい料理の道が始まりました。

    「当たり前のことなんですが、ここならすべての料理を仕込みから考えて作ることができる。一度やめようと思っていた自分にそういう場を与えてくださったことが本当にありがたかったです。今、料理を作る喜びをあらためて感じています。」

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    Terroir

    生きたまま仕入れる大玉村産の養殖イワナ。調理には技とスピードが求められる。

    はるみや旅館の料理のベースとなっているのは、震災以降に今泉社長が積み上げてきた福島県内のさまざまな生産者とのつながり。「身近にこんなにおいしいものがある、こんなにすごい生産者がいる。そのことをどうにかして伝えたい」という今泉社長の心意気を橋本さんが受け継ぎ、形にしています。山あいの宿ならではの味を感じていただける山菜やきのこ、新鮮な野菜はもちろん、川俣シャモや福島牛なども並びます。

    魚は相馬で水揚げされたものが並ぶこともありますが、基本は川魚。中でもイワナはお客様からの人気が高いメニューです。橋本さんは、生きたまま仕入れたイワナを活け造りにします。川魚の刺身はとにかく鮮度が命。調理のスピードが味を左右します。ここが橋本さんの技の見せどころです。

    My
    Mariage

    イワナの活け造り

    はるみや旅館で提供されるイワナは、安達太良山麓は大玉村の養鱒場で育ったもの。安達太良の豊かな湧き水を使い卵から成魚になるまでをその地で過ごす、生粋の安達太良産イワナです。年間を通して味わうことができますが、一番の旬は春から初夏の時期。程よく身が締まった食感の中に上品なトロ味を感じます。

    このイワナに合わせるのは、二本松市 奥の松酒造の「奥の松 吟醸 安達太良山伏流水仕込み」。イワナと同じ安達太良育ちのやわらかな吟醸。まさしく最高のマリアージュです。

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    • 伊達鶏と会津とろねぎの陶板焼き

    • イワナの活け造りはスピードが命。手早く捌く

    はるみや旅館へ来るまで、福島県産食材へのこだわりは「正直なかった」と言う橋本さん。しかし、今泉社長の想いに感銘を受け、社長と交流のある生産者や異ジャンルのシェフ達との交流を重ねる中で、すぐ足元にある食材に目を向けてこなかった自分に気づいたそうです。この地へ来て1年。今では県内各地の生産者と積極的に交流し、新鮮で質の高い県産食材を日々の料理に取り入れています。

    その中の一つが、会津若松市の佐藤忠保さんが生産する「とろねぎ」。みずみずしさと強い甘みが特徴です。12月は霜降りねぎ、1月は雪下ねぎ、3月は越冬ねぎと呼ばれ、「1年で3回味が変わるねぎ」として人気を誇っています。

    このとろねぎを使って用意されたのは「伊達鶏と会津とろねぎの陶板焼き」。伊達鶏の胸肉の旨味が陶板の上に溶けだし、ねぎの甘みと絶妙に絡み合います。さらに、大玉村で栽培されるヒラタケ科のキノコ「タモギタケ」も添えられました。

    合わせる酒は、福島市内唯一の酒蔵、金水晶酒造店の「金水晶 純米吟醸なかどり」。福島県独自の酒造好適米「夢の香(ゆめのかおり)」を使って作られた、雑味のないクリアな味わいの生酒。橋本さん自ら酒蔵へ足を運びチョイスした一本です。

    農家だけでなく酒蔵にも足を運びながら、福島の料理人としての誇りと経験を積み上げる橋本さん。時間があれば各地へ出向き田植えや収穫を手伝ったり、時には酒を酌み交わしたりしながら、新しい料理へのヒントや料理人としての刺激を得ています。

    「以前の自分は本当に視野が狭かったなと思います。ここに来て、素晴らしい生産者、素晴らしい料理人、素晴らしい酒蔵と出会って、一気に視界が開けたような感覚です。福島にはこんなに素晴らしいものがあるんだということをもっと多くの人に伝えたいと思うようになりましたし、農家さんの想い、こだわりを形にしていくのが料理人の務めだと今では思っています。」

    一度は自ら閉ざしかけた料理の道。その道を再び開かせたのは、橋本さんが出会ってきた人々が持つ人情や、食に対する情熱、そして何より、福島だからこそ味わうことができる食の素晴らしさ。はるみや旅館の極上の「田舎料理」には、福島で料理と向き合う喜びを得た橋本さんの技と想いが溢れています。


    Data

    はるみや旅館

    • 住所:福島県福島市土湯温泉町杉ノ下72
    • 電話:024-595-2134
    • 時間:電話受付時間 8:00~21:00