日仏の料理文化を取り入れオール福島の食材で奏でる
常磐の海の幸と福島の酒のマリアージュ
10席ほどの小さなお店。フランスで修業し、腕に磨きをかけたセレブリティーをうならせるシェフが心から愛する食材だけが提供される。
いわき市の小高い丘の上に建つ白壁の料理店。大きなガラス窓の外にはテラスがあり、フランスの小さな町にある一軒家のような佇まいを感じます。フランスのオランド元大統領をはじめ国内外のセレブリティーを魅了してきた萩シェフですが、オーナーシェフとして腕を振るうこのホームグラウンドは、カウンターが6席とテーブル席が2つだけのこじんまりとしたお店です。
厨房は開放的で、萩シェフ自ら厳選した福島の食材が魔法のように姿を変えてゆくそのプロセスを、手に届くほどの距離で感じることができます。食事を彩るお酒は、いわき産を含む世界各地のワインや福島県内各地の日本酒。福島ならではのおいしさにこだわる萩シェフに愛された食材とお酒だけが、ここでは提供されています。
震災以降、良い素材が十分に確保できなかった事情もあって、予約を1日1組に絞って営業を続けてきた萩シェフ。それを、震災から8年が経過し、シェフ1人で対応できる最大10名のお客様の予約ができるスタイルに変えたとのこと。「復興が進み、食材もよいものが安定して手に入るようになってきました。福島の食材、自分の信頼する生産者の食材をもっと多くのお客様に食べていただきたいと思って…」とその理由を語ってくれました。「素材が良いからと言って、料理人が何もしなくていいはずがありません。生産者がこれだけがんばっているのだから、料理人も料理をがんばらなければ。そう思って丹精込めて料理をご提供しています。」
そんな萩シェフがテロワージュメニューに選んだ食材は、いわき産の伊勢海老でした。
Terroir
いわき産の伊勢海老。福島の海もいよいよ回復してきた。
あまり知られていませんが、いわきの海では以前からよく伊勢海老が取れるのです。いわきが誇る隠れた高級食材です。
「福島の海は震災以降大変な状況が続きましたが、今はむしろ震災前よりいい食材が手に入るようになってきていると思います。こんな素晴らしい伊勢海老が取れるまでに福島の海が回復してきたことは間違いないですし、ここの海でとれた食材を使うこと自体に意味があると思います。」
Mariage
オール福島の前菜「福島で咲いた花」
コンソメを効かせた川俣シャモのレバームースの上に福島産のりんごとラズベリーで作ったソース、その中にあんぽ柿を忍ばせ、液体窒素で固めた郡山の酒蔵・仁井田本家の甘酒を乗せた前菜。最後にこれも福島産の食用花を乗せ、「福島で咲いた花」と名付けました。
何百回と試作を重ねて出来上がったというこの一品に合わせるために萩シェフが選んだのは、地元のいわきワイナリーでつくられたロゼワイン「マスカット・ベーリーA ロゼ 2017」です。
「色合いも近いので、その美しさも含めて選びました。」
いわき産の伊勢海老を使って萩シェフが作ったテロワージュのお料理は、伊勢海老の身を活きた状態の伊勢海老の殻から取った出汁にさっとくぐらせ、伊勢海老の濃厚なエキスが香るソースと会津伝統野菜「小菊南瓜(こぎくかぼちゃ)」のピューレを合わせた一皿。傍らには福島の原木シイタケを使ったタルトが添えられています。
「少し生の食感が残ったその身を、伊勢海老のフレンチ・ソースに絡めました。半生(はんなま)は日本の素晴らしい料理文化だと思います。時間をかけて抽出した伊勢海老の風味豊かなソースとともに召し上がっていただきます。」
そんな一品に合わせたのは、郡山市の仁井田本家の「おだやか 純米吟醸 山田錦」。いわきにて自然栽培で育った酒米、山田錦で醸された日本酒です。
「抽出した旨味を新鮮さの中に合わせ、和と洋の料理の良さを融合させることで、自分の料理と日本酒との接点が見えるようになってきました。作っているのはフランス料理なのに、まったく抵抗なくマリアージュするんです。」
「日本酒だって、しっかり手をかけて作る人の酒はやっぱりうまい。それと同じなんだと思います。ソースを作るのには手間暇がかかりますが、そこを怠らずに、これからも福島県内のいい素材を吟味しながら、福島の酒とマリアージュする料理を提供していきたいと思います。」