Terroage Fukushima テロワージュふくしま

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    地元いわきを詰め込んだ料理に乗せる想い
    「福島の豊かさをもっともっと発信したい」

    • [和食]福いる
    • 浜通り・いわき市

    いわき駅前の繁華街からやや離れた場所にある隠れ家的な店。いわきの食材を心ゆくまで堪能できる。

    いわき駅の南口を出て歩くこと数分。賑わう駅前の飲食店街を横目に本町通りへと抜ける、その少し手前に、白壁の品のある店構えに赤いのれんが映える和食の店があります。店の名前は「福いる」。暖簾をくぐり店へと入ると、9坪ほどのこじんまりとした店内で、店主の塩井大輝さんと奥様の受受(じゅじゅ)さんが出迎えてくれます。

    塩井さんは高校卒業後にいわきから上京。10年以上料理の道を歩みましたが、始めはいわきに帰ろうとは思っていなかったと言います。思いが変わったのは、東日本大震災のいわきの街の姿を知ってからでした。

    「自分の店を持つにしても東京だろうと思っていたんです。でも、震災からずいぶん経ってもいわきの街は静かなままだという話を聞いて、町おこしと言ったら大げさかもしれませんが、いわきに帰って地元を盛り上げたいという気持ちが強くなりました。」

    東京で出会った受受さんは静岡県下田市の出身。まだまだ震災のイメージが残るいわきでのスタートに最初は不安もあったと言いますが、「ついていくしかない」と共にいわきへ移りました。大輝さんの実家はいわきの久之浜。受受さんの実家も下田の海のすぐ近く。どちらも海があって山があって、どちらも太平洋側で、どちらも魚がおいしい。共通点の多さも、新しい道へと一歩を踏み出す決意を後押ししたようです。店には、福島の酒と共に静岡の酒も並びます。

    「福いる」という店名は、漢字とひらがなの組み合わせで丸みのあるやわらかい名前をつけようとノートに文字を書き連ねる中で、“なんとなく”生まれたものだとか。しかしその語感には、塩井さんご夫妻の佇まいにも似た穏やかさを感じます。「もちろん福島の“福”でもあるし、“福がいる”という意味でもある。後付けですけどね。」と言って2人は笑います。

    実家が海までわずか50mほどという場所で育った塩井さん。開店以来こだわるのはやはり、地元いわきの海の幸です。

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    Terroir

    いわきを代表する高級魚である柳ガレイ

    手にしたのは、いわき産の子持ちの柳ガレイ。張りのある白身が美しい、シルクのような光沢をもつ絶品の「常磐もの」。その干物は贈答品としても使われるなど、高級魚として珍重されています。

    「柳ガレイは、いわきでは嫌いな人はいないのではないかというほど人気の魚です。特に冬から春にかけては脂が乗っておいしい時期なので、店でもよく用意させてもらっています。」

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    柳ガレイといわき産原木しいたけの揚げ出し

    そんな柳ガレイを、こちらもいわき産の原木しいたけと共に揚げ出しにした一品。震災後のいわきでただ一軒、原木しいたけの栽培に取り組む「ファーマーズハウスさわ」の見事なしいたけです。その食感と旨味が、柳ガレイの白身の味わいと絶妙なコントラストを見せます。

    「海のものと山のもの。その2つをかけ合わせることで、いわきの豊かさを表現しようと思い作りました。薬味で乗せた大根もネギもいわきのものを使っています。」

    ここに合わせるのは、「飛露喜」で知られる会津坂下町 廣木酒造の「泉川 純米吟醸」です。

    「うちは東京からの出張や単身赴任のお客様も多いのですが、ほとんどの方は飛露喜は知っていても泉川はご存じないので、喜ばれることが多いですね。冷はもちろん、燗にしてもおいしい。オープンの時からずっと使わせていただいている酒です。」

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    • オールいわきの「ふきのとうの福いるコロッケ」

    • 素揚げで色留めしたふきのとうが顔をのぞかせる

    • 東京での10年を超える経験を経て地元食材にこだわったメニューを提供する

    「福いる」の看板メニューは、季節ごとに中身の食材が変わる「福いるコロッケ」。ベースとなるのは、市内にある「とうふ屋 大楽」の豆乳で作ったベシャメルソースです。国産大豆100%で添加物ゼロ、にがりだけで作られた豆乳は、濃厚でありつつ豆臭さをまったく感じさせません。

    ベシャメルソースに混ぜ合わせるのは、季節ごとの旬の食材。春のふきのとうや竹の子に始まり、初夏にはそら豆、夏には焼きとうもろこし、秋から冬にかけては里芋と、店を訪ねるごとに違ったいわきの味を楽しむことができます。

    今回塩井さんが使ったのは、ふきのとう。いわきの春を詰め込んだこのコロッケに、いわき市 太平桜酒造で仕込まれた「ハタチ酒」を合わせます。クリーミーで濃厚なソースに負けない強さのある、市内の若い世代が米づくりから関わったお酒。どこを取っても地元を感じることができる、いわきならではのマリアージュです。

    「牛乳でベシャメルソースを作れば洋食の味になりますが、豆乳で作ると和食のような味になります。そのクリーミーなソースでふきのとうを包むので、苦みが苦手な方でもおいしく食べていただけると思います。ふきのとうは刻んだ瞬間からアクが出て黒く変色してしまうので、刻んですぐに素揚げして色留めしています。」

    その素揚げやコロッケを揚げる際に使う油は、石川郡浅川町「協同製油」の菜種油。昔ながらの製法でじっくり絞られた、純度100%の油です。

    「この油だと、パットを洗う時にもさっと落ちます。きっと胃の中も一緒ですよね。揚げ物を食べてもさらっと流してくれる。食べた後に油の重たさをまったく感じないのは、この油のおかげだと思います。」

    駅からやや離れたこの場所に店を出した当初は、仲間やお客さんから「よくここでやろうと思ったね」と言われることも多かったと言いますが、隠れ家的な落ち着いた雰囲気を気に入って通う常連客も多く、「いわきで、この場所で店を構えてよかった」と心から思うようになったと言います。

    「あらためて、福島は本当に豊かな土地だと実感しています。せっかく帰ってきたんですから、この豊かさをもっともっと発信していきたい。まだまだ始めたばかりですし、年齢的にもこれからですけど、料理人の先輩も生産者の方々もみんな福島を盛り上げようと頑張っているので、僕もしっかりついていかなければいけないと思っています。」


    Data

    福いる

    • 住所:福島県いわき市平5-17-5
    • 電話:0246-88-1154
    • 時間:17:00~23:00(ラストオーダー 22:00)
    • 定休日:毎週日曜日(月曜祝日の場合は日曜営業、月曜休業)
    • 平均予算:5,000円~