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    素朴で飾らない「あいづ会席」に込められた
    会津の食の奥深さと女将の心

    • [和食/宿泊施設]いろりの宿 芦名
    • 会津・会津若松市

    会津の風土が育んだ豊かな食文化を、昔懐かしいいろりのもとで堪能できる。

    福島は全国有数の「温泉県」です。温泉地の数は全国第4位(環境省「平成30年度温泉利用状況」による)。風情ある温泉街がいくつもあり、訪れる人々の旅情を掻き立てます。

    そんな温泉街の一つ、江戸時代には会津藩の湯治場として栄えたという会津若松市の会津東山温泉の中に、客室わずか7つのこじんまりとした旅館があります。創業70年以上の歴史を誇る「いろりの宿 芦名」。歴史を感じさせる建物は築120年を超える古民家を移築したもので、その歳月が醸し出す風格を、宿に一歩足を踏み入れた瞬間から感じることができます。

    そうした昔ながらの雰囲気と共にこの宿の魅力となっているのが、会津の地の物をふんだんに取り入れた「いろり会席」です。女将の和田美千代さんが自ら食材を見極め、季節ごと、日ごとの旬を肌で感じながら一品一品丁寧に作られる会席。素朴で奥深い、会津の食の本当の味わいが詰まっています。

    東山温泉の背後にそびえる背炙山(せあぶりやま)。和田さんは、その山を挟んだ反対側の裾野の集落に生まれ育ちました。「いろり会席」は、和田さんがそこで幼いころから親しみ心と体に染みついたふるさとの味がベースになっています。

    メインとなる肉料理以外の会席の中味は「思いつき」。その日に仕入れたもので何ができるか考えながら料理を組み立てます。共に厨房に立つのは、甥と義理の妹です。「毎日やることを変える私のようなやり方では普通の板前さんには頼めないもの」と和田さん。しかし、あらかじめ決められた料理ではないことが、この会席に「なつかしさ」や「あたたかさ」という無二の味わいを与えていることは間違いありません。

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    うるいやくきだち菜、わらびなど地の物が並ぶ「いろり会席」の膳

    「いろり会席」はその名の通り、歴史を感じる和室でいろりを囲みながら会津の旬の味を堪能できるコース。お膳に使われる素材はどれも、知り合いの農家さんなど「顔が見えるところ」から仕入れます。また季節になると和田さん自らも畑仕事をして、宿で提供するさまざまな野菜を育てます。

    山里ならではのこうした素朴なお膳に、川魚の串焼きと味噌田楽、会津名物の馬刺し、メインの肉料理、さらに〆のそばとデザートがつけられた会席はボリューム満点。この料理を目的にリピートで訪ねるお客様も多いと言います。

    「私、お客さんのお膳が空っぽになると気がもめちゃって。そんな時は、あるものでできる料理をちゃちゃっと作ってお出しするんです。だから、いつもお客さんのご飯がなかなか終わらなくて(笑)。」

    こんなところにも、会津の人のあたたかさやおもてなしの心を感じることができます。

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    沼沢湖で育ったヒメマスの串焼き。頭からがぶりと味わう。

    いろり会席はまず、いろりに刺された魚の塩焼きと味噌田楽からスタートします。この日の魚はヒメマス。会津金山町の沼沢湖で養殖されたヒメマスを丸かじりでいただきます。

    沼沢湖は福島県内唯一のヒメマスの生息地。大正時代初期に秋田県の田沢湖から卵が持ち込まれて以来、100年以上にわたり養殖の伝統が受け継がれてきました。そのヒメマスを一時間じっくりといろりの火に当てることで、身はふんわりとやわらかく、骨も遠赤外線の力ですべて食べられるように焼き上がります。ヒメマス漁のシーズンは4月から9月まで。季節や仕入れ状況によりイワナが提供されることもあります。

    合わせるお酒は、会津若松市 高橋庄作酒造店の「会津娘 純米吟醸 春泥」。会津の無農薬の田んぼで作られたこだわりの米だけを使って仕込まれた酒です。

    「私、最初に言ったんですよ。なんで“泥”なんて汚い名前を付けたのよって。そしたら、違うんだと。原発事故で我々の田んぼは汚されてしまったけれど、いつか春が来っぺ、来るに決まってる。そういう願いを込めたんだと。そんな切ない思いを聞かされたら泣きたくなっちゃう。もちろんお酒としてもいいものだと思いますけど、私はその気持ちに惚れて、この酒を宿に置くようにしたんです。」

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    • 田んぼで働いた鴨を供養する「鴨しゃぶ」

    • そばは磐梯町のそば名人から毎日打ち立てが届く

    • 女将の和田さん。亡きご主人が買ったものという蓄音機と共に。

    メインの肉料理は、会津地鶏の水晶板焼き、会津牛焼きしゃぶ、会津牛ステーキ、鴨しゃぶから一品を選びます。仕入れによってはジビエが楽しめることもありますが、この日のチョイスは鴨しゃぶです。春先のヒナの頃から合鴨農法の田んぼで活躍し、秋が過ぎて成鳥になった合鴨。その命をいただきます。せっかく人のために働いてくれた鴨なんだから、最後はしっかり食べて供養してあげたい。女将のそんな想いから生まれたメニューです。

    鍋のつゆは、じっくり煮だした野菜スープに昆布やかつおぶしから取った出汁、さらに鴨の脂身を入れて煮込んだもの。甘みと旨味が詰まったつゆに鴨肉をさっとくぐらせていただきます。程よい食感の鴨肉からは、噛むほどに肉そのものの旨味がにじみ出てきます。

    鴨肉と共に鍋の具材となるネギや白菜、芹(せり)なども、無農薬の地場ものや和田さんの畑で穫れたもの。特に芹の爽やかな味わいはつゆと抜群の相性を見せます。合わせるお酒は、会津坂下町 曙酒造の「天明 糟しぼり 純米火入れ」。力強さの中に深い旨味が詰まった酒が、まろやかな鍋の甘みと見事に溶け合います。

    「芦名」で提供される料理は、食材はもちろん、塩や醤油に至るまで、すべてが添加物や化学成分を含まないもの。そこには、会津の自然の中で地元の食に触れ、その味を愛してきた和田さんの強いこだわりがあります。

    「うちで出す料理は都会の人にとっては見たことも聞いたことも食べたこともないようなものばかりかもしれないですけど、昔々、あなたの先祖やその前の先祖はきっとこういう料理食べていたはず。そのDNAはきっと誰の中にもあって、その味を脳の奥底のどこかの部分が覚えていると思うんですよね。うちの料理を食べたお客さんから「おいしい」とか「落ち着く」とか「いい気分になった」という言葉が出てくるのは、きっとそういう記憶が目覚めたからだと、いつも勝手にそう捉えているんです。」

    会津の食材がふんだんに使われる「いろり会席」。その味を決めているのは食材だけではなく、時代を超えて受け継がれてきた会津の食文化の奥深さと、その食文化を通して食の本当のありかたを伝えようとする和田さんの心なのかもしれません。


    Data

    いろりの宿 芦名

    • 住所:福島県会津若松市東山町湯本下原232-1
    • 電話:0242-26-2841
    • 時間:チェックイン 15:00~ チェックアウト ~10:00
    • 平均予算:20,000円~30,000円(宿泊料込み)