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    「食べることは生きること」
    福島の魅力的な食材に心を込めて

    • [イタリア料理] Osteria delle Gioie(オステリア・デッレ・ジョイエ)
    • 中通り・福島市

    生産者に近い環境に根を下ろし、食材と向き合った料理を作る

    国道4号線から小道に入った場所にある、福島市の隠れ家レストラン「Osteria delle Gioie(オステリア・デッレ・ジョイエ)」。ジョイエとは、イタリア語で元気の素という意味。オーナシェフを務める梅田勝実さんは「ご来店くださるお客様の元気の素でありたい。店名にはそんな思いを込めました」と笑顔で答えてくれました。

    梅田さんの出身は千葉県。もともとは関東のイタリアンレストランで働いていたそう。

    「料理人として働き始めた1997年頃の日本には、まだ今ほど「地産地消」の意識は広まっていなくて。イタリア料理の“地域ごとの個性を尊重する食文化”を実践している店も少なかったです。そんな中、イタリアのブラという町から始まった地域の食や文化を守る『スローフード』に興味を持つようになりました。命を扱い、自分の体に取り入れる食べ物。それをどこで誰が作ったのか知ることは、大切なことではないのかと」

    第一子誕生を機に、奥様の実家がある伊達郡保原町へ移り住むことを決意した梅田さん。生産者に近い環境に根を下ろし、この土地で食材と料理に向き合うことを決めました。

    「妻の実家を訪れた時、まず感動したのは環境の豊かさです。特に高子街道から伊達市内への道は、眺めがすごく良くて。少し標高が高くなっている場所から周りの畑が全部見える。果樹畑を見ながら移動できたりして。素晴らしいロケーションだと思いました。果物や野菜の芽吹きからの成長、農家さんの息づかいが身近に感じられる。こんな場所なら料理人としてたくさんの気づきがもらえるんじゃないかと思ったんですよね!」と、にっこり微笑みます。

    当初は福島市内のホテルで働きながら、イタリアへ修業に行くことを計画していました。そんな中、義兄から思いがけない提案を受けました。それが、『実家の食堂をイタリア料理店にするため、料理をして欲しい』という打診。

    その提案を快く引き受けた梅田さんがまず最初に行ったのは農家探しからでした。しかし、決して簡単な道のりではありませんでした。

    「今みたいに直売所もそれ程ない時代。農家さんと直接つながるにはどうしたらいいんだろうと考えて、まずはJAを訪れました。でも窓口で門前払い状態で(笑)。畑はたくさんあって新鮮な野菜の宝庫が身近にあふれているのに、農家さんとつながることが出来ない。当時の福島の飲食店のほとんどは、野菜は八百屋から仕入れる店がほとんどだったから。

    ようやく小さな直売所を見つけて通っていると、少し変わった洋野菜を作っている菅野さんという方の名前を目にするようになりました。どうやら息子さんが洋野菜に興味があってネットで種を買ってつくっているようで。菅野さんを皮切りに少しずつ農家さんとのつながりが出来てきました。やっぱり目的を持って野菜を作っている人と出会えたのは、すごくうれしかったです」

    そして、8年の月日をかけ、自然や農家の人々から気づきや学びを受けた梅田さん。次のステージを北イタリアのピエモンテ州へと移します。

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    Terroir

    今につながるイタリアでの経験

    現地ではホテル業界関連の学校に通いながら、ミシュランの星つきレストランなどで働きました。中でも特にイタリアのフェリエという長期休暇中に働いた店は、午前中は精肉店、昼からステーキ屋になるような面白い店。精肉の技術はもちろんのこと、イタリア人の考え方などにも親しみ学ぶことができたそうです。

    「イタリア内陸のレストランや精肉店で研鑽(けんさん)させてもらった経験から、いま私の店で扱うメイン料理は内陸のイタリア料理が多めなんですよ」。

    さて、料理の味わいをさらに深める大人の楽しみといえばアルコールです。今回梅田さんはどのようなマリアージュを見せてくれるのでしょうか。

    My
    Mariage

    「食べることは生きること」それが信条に

    今回のアンティパストは「いかにんじん」。いかにんじんといえば、福島通なら誰もが知る県北地方の郷土料理です。梅田さんはそれをイタリアンで表現。詰め物をした相馬産コヤリイカと細長い姫にんじんを人参ジュースと白ワインで軽く煮込み、春菊のピュレを添えて提供。本来の甘味が引き出されたにんじんに、自家製カラスミを使い、ヤリイカと人参の旨みが調和した逸品です。これを伊達市在住の陶芸家にオーダーしたシンプルモダンなお皿でいただきます。

    「イタリア語に『モンテ・エ・マーレ』という言葉があるんですが、『海の幸、山の幸』という意味で。いかにんじんって、まさにそうですよね。 海と山の滋養の相乗効果で美味しくなるんです。今回はイタリアではポピュラーなイカの詰め物をした料理を福島と結びつけてみました!」

    ここに合わせるのは、かわうちワイナリー「LIBEL」シリーズの白。福島県内で作られたこのワインは地域の文化や風土が爽やかに表現されており、郷土料理であるいかにんじんと相性抜群です。

    「福島伊達で農家さんとのつながりが広がっていく中で、霊山に住む自然料理研究家のよーこばっぱ(本名:本田洋子さん)との出会いもありました。彼女は『食べることは生きることなんだよ』と教えてくれて。料理は味を楽しむだけのものではなく、心も体も作るもの。だからこそ、信頼できる農家さんと目に見える関係を築いていくことは、大切なことのひとつだと再確認できました。今ではその言葉が信条になっています」

    生産者へのリスペクトを常に持っている梅田さん。来店するとメニュー表と一緒に作り手さんの一覧も用意されている。料理が運ばれてくるまでの時間、どんな人がどんな思いで作ったのか思いを馳せるのも楽しいひととき。

    「料理って味の美味しさだけが考えられがちで、どうしても食材の芽吹きまで想像がおよばないところがある。うちの料理は生産者さんも自慢のひとつなんですよ」と梅田さん。

    Terroage
    Menu
    • 「会津ひまわり豚の自家製20カ月熟成 生ハムと伊達の洋梨 カスタニャッチョのアクセント(左)」と「いかにんじん(右)」

    • 27カ月熟成生ハムは会津ひまわり豚の骨付きもも肉を自家製で仕込んでいる。「アニマルウェルフェアの考え方を踏まえた畜産家さんで、健康で健全、長期飼育で育てられた豚肉です」

    • メイン料理「大玉村 酵母和牛のアッロースト この土地の野菜のグリッリア」

    • パスタ料理「会津ひまわり豚サルシッチャのラビオリ 酵母和牛のコンソメと福島の大事の滋味 ピエモンテ産黒トリュフと」

    • ワインはグラスで提供しているので、色んな種類を少しずつ楽しめる

    メインの料理は、大玉村「國分農場」の酵母和牛イチボが使われたアッロースト。表面をグリルした和牛をしっとりとロースト し、味わいの違った2種のソースでいただきます。サラッとした脂と肉の旨味を感じる酵母和牛にペアリングするのは、イタリアのナチュラルワイン「BRESSAN」シリーズ「ピノネーロ」を。酸味が特徴的で、ドライフルーツやスパイスの香りが今回の一皿にピッタリです。

    「お店のワインも『つくり手の考え方』で取り扱いするワイナリーを選んでいたら、ナチュラルワインが自然と集まってきました。私としてはそれだけにこだわっている訳ではないので、色々試していきたいです」

    お店を営む一方、福島市街地で毎年行われているワインイベント「ワイン ヴァンヴィーノ フクシマ」も取り仕切っている梅田さん。

    「ワイン ヴァンヴィーノ フクシマは、ワインを通じてこの土地の魅力的な人たちを紹介する素敵なイベントです。地域に根差して食文化を発信している出店者さん、ワイナリーさん、農家さんたちに支えられて成り立っています。福島という土地でこれから食に関わる若い世代も応 援できるよう、魅力的な食イベントを目指して仲間と頑張っていきたいですね!」」と目を輝かせていました。

    (執筆/木俵麻樹子)


    Data

    Osteria delle Gioie (オステリア デッレ ジョイエ)

    • 住所:福島県福島市鳥谷野字二ツ石12-3
    • 電話:024-529-6656
    • 時間:11:30〜15:00(LO14:00)/18:30〜22:00(LO20:30)
    • 定休日:水曜日、第2・4火曜日