Terroage Fukushima テロワージュふくしま

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    地元の食材が生み出すシチリア料理
    伝統的なマンマの味をこの地で

    • [イタリア料理] トラットリア・ダ・マルティーノ
    • 中通り・伊達郡国見町

    2019年にオープンした知る人ぞ知る、遠くても通いたい店

    宮城県との県境、福島県最北部にある国見町。豊かな自然に恵まれたこの町に、県内では珍しいシチリア料理を提供するお店「トラットリア・ダ・マルティーノ」があります。今回、出迎えてくれたのはオーナーシェフ・渋谷朝洋さん。

    「両親が共働きだったということもあり、子どもの頃から自宅で料理をしていました。時々遊びに来る叔父が手の込んだ料理を作ってくれて。当時の私にとって料理とは、必要があってやっていたものでしたが『楽しむ料理』というものがあるということをその時、教えてもらいました。作っている過程を楽しみながら見ていました。」

    高校卒業後はイタリアンの道へ進んだ渋谷さん。福島市内の店舗で順当に経験を積んでいたところ、2011年東日本大震災が。この震災が渋谷さんにとって思いがけず人生の転機となります。

    「実は私自身、『本場のイタリアに触れず、何をもってイタリア料理なのか?』と日ごろから思っていたところがあって。震災を区切りに、いつか…と思い描いていたイタリアに行って本場の料理を学ぶことに決めました。そこからは留学費用を貯めながらイタリア語の勉強を開始。4~5年の準備期間を経てイタリアのシチリアに発ちました。」

    イタリアの中でも取り分けシチリア人はマグロやウニを生で食べるなど、日本人と食の好みが似ていると言われています。また、東北地方で食材が手に入りやすいというのも、この地を留学先に選んだポイントでした。

    現地では、地元の人向けの食堂を中心に食べ歩き。

    なるべく地元の人たちばかりの環境に身を置きたいと考えていたので、観光客の行かないような食堂にばかり足を運びました。そして、語学学校に通いながら、縁の繋がったレストランで働き始めました。

    現地では色んな出会いがあったそう。

    中でも刺激的だったのは、大学で美食学を教えていた経歴のあるマルティーノ教授。シチリアの伝統的な料理を学びたいと思っていたところに、技術だけでなく歴史的背景なども教えてくれる存在でした。

    例えば、今回登場する3種類のメニュー。そこにはイタリアの中でも発展途上の地域にあたるシチリアで生み出された、工夫と知恵が詰まっています。

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    「食材に旅をさせない」こだわりが生み出す料理

    帰国の後、2019年に地元でもある国見町に店をオープンした渋谷さん。店名はマルティーノ教授の名前を拝借し、”トラットリア・ダ・マルティーノ”に。「お食事処マルティーノ」という意味です。”お食事処”と謳っている通り、この店で食べられるのはシチリア人が日常的に食べている料理。現地の味が忠実に再現されています。

    「国見町に店をオープンした理由のひとつは知り合いの農家から近い場所だったから。鮮度のいい状態で食材が手に入ります。また、この辺りは地元でもあるので、農家の方々の人となりを知っていました。みなさんおいしい野菜を丁寧に作ってくれている方々です。どんな人が作った何なのか、それを知っているかどうかも重要だと思っています。」

    実際、この店で口にする野菜はすべて契約している地元農家のもの。

    「旬のものを食べるのが一番おいしい食材の食べ方だし、栄養価も一番高い。変な話、採れる野菜がズッキーニしかない時は、前菜もパスタもズッキーニ(笑)。そのくらい自然の恵みに身を任せて、あるものをどう食べるかというのを考えて作っています。食材に旅をさせるのではなく、食べ手に足を運んでもらう。そんなお店にしたいと思っています」と微笑む渋谷さん。

    そんな話を聞していると、早速おすすめのメニューがオーブンから焼きあがってきました。

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    イタリアマンマの家庭料理にあるのは貧しい時代のアイディアと思いやり

    さて、今回のメインはイタリアの家庭料理「インボルティーニ」。

    インボルティーニはイタリア語で、巻く、包むという意味。イタリアでも地域によって巻く食材は違います。今回は肉巻き。現地の肉屋では焼き上げる前の状態のものがズラリと並んでいるそう。長い間、シチリアの庶民の胃袋を支えてきた伝統的な品です。

    チーズ、松の実、レーズン、パン粉などを牛肉で包み、レモンとオレンジを交互に挟んでロールキャベツのように包み、オーブンで焼きあげたこの料理。少ない肉でもボリューム満点に感じさせるイタリアマンマのアイディアが詰まっています。

    さっそく口に含んでみると、まず最初に感じたのはレモンの爽やかな香り。そこにオレンジの甘味が追いかけてきて、最後に牛肉の旨味が広がる。使われている肉は、代々続く畜産農家「肉のゆーとぴあ」から仕入れた飯館牛の黒毛和牛。オーブンで肉の旨味をギュッと閉じ込めながら短時間で焼き上げ、ジューシーな仕上がりが秀逸です。

    この皿に合わせるのは「クリスト ディ カンポベッロ」の赤ワイン。

    こちらは世界各国のワインガイドからも絶賛されている今注目のワイナリーで、凝縮されたベリーの香りとスパイシーな香りが絡みあったバランスのいい一杯です。

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    Menu
    • 「梁川産のフィノッキエット(ハーブ)と鰯のブカティー二(シチリアパスタ)」は現地で渋谷さんも毎日食べるほどハマっていたという

    • 右から「クリスト ディ カンポベッロ」の赤、「Hop Japan」のAbukuma GREENビール、「わかうちワイナリー」の白

    • ひよこ豆のペーストをカリッと揚げた「パネッレ」(左)とミントが香る小さい俵型のイタリアンコロッケ「クロッケ」(右)

    • 香り高いパスタには、柑橘系の香りが楽しめる「ヴィラージュ」シリーズを合わせてさっぱりいただきたい

    • JR「藤田」駅目の前の便利な立地。山形や宮城から足しげく通うファンも多い

    店内で扱っているシチリア産のワインは約60種類。

    「今までシチリア産のワインしか扱っていたなかったのですが、今回、『テロワールふくしま』さんからおすすめいただいて、福島のワインも取り扱うことに決めました。福島の食材を使っているから、同じ土で作ったワインならきっと合うだろうと。実際、川内村のぶどうで作ったワインは、自然とうちの料理に馴染んでいますね。」

    そう言いながら次に提供してくれたのは「梁川産のフィノッキエット(ハーブ)と鰯のブカティー二(シチリアパスタ)」。

    「このパスタは私が好きで毎日食べていたものなんです。フィノッキエットというハーブを使っているんですが、日本では作っている農家がなかなか見つからなくて。知り合いのつてで梁川町の農家さんが作っていると聞き、手に入れることができました。でも実はこのフィノッキエット。私がシチリアにいた時に『フィノッキエットの種が欲しいと言っている農家がいる』と妹に言われて、種を送った農家さんだったんですよ。こうなるとは考えてもいなかったけど、結果、人に向けた行為が自分に返ってきました。」

    渋谷さんはこう続けます。

    「シチリア人は陽気でフレンドリー。宗教の影響か、周りに手を差し伸べやすい倫理観のある人たちが多いと思います。古き良き昭和のような人間味を感じますね。」

    イタリア語のラジオが軽やかなリズムを刻む店内。本場さながらの料理を口にしながら、グラスを傾けていると『今、自分がいるのは日本?シチリア?』という妙な錯覚を覚える瞬間も。時間をかけてでも通う価値のある店をこの場所に見つけました。

    (執筆/木俵麻樹子)


    Data

    Trattoria da Martino(トラットリア・ダ・マルティーノ)

    • 住所:福島県伊達郡国見町山崎舘東14-8 アカリビル1F
    • 電話:024-573-9014
    • 時間:11:30 - 14:00/17:00 - 20:00(※夜の営業は金、土曜日のみ)
    • 定休日:月曜日、他(不定休あり)
    • 平均予算:2,000円~